【講師の川崎陽二氏のお話】
看護科ということで、皆さん方は数年後にはそれぞれ現場の方で実務にあたると思うが、それを含めて私とがんと緩和ケアの関わり方、捉え方とか、少しお話できたらと思う。
皆さん方、初対面の人と会ったら、その人のイメージって描きません?優しそうだなとか、こわそうだなとか。そんなイメージをがんに置き換えてみると、皆さん、がんのイメージをどのように持たれてますか?怖いんだろうな、痛いんだろうな、辛いんだろうな。あと、がんはよくわからん。それもひとつのイメージだと思う。
2012年2月22日にがんと宣告された。前立腺がんの末期。この時期は痛かったし、怖かった。がんと宣告されて、がんを知らない人が「怖い」だの「辛い」だの言うのと一緒で私もやはり怖かった。何もわからない状態だったので。
骨の転移部分を治療する為に、普通の放射線でなくてストロンチウム89というリニアック放射線治療を受けた。私の場合、外照射後にストロンチウム89が含まれた造影剤を投与した。中から放射線を外に向けて治療し、外は外側でダブルで放射線治療機であてる。放射線治療を受けたあとの副作用が大変きつかった。
前立腺というのは小さな臓器。下腹部に位置し胡桃大ぐらいで、その間に尿道が貫通している。精子の一部を作ると言われている以外、他は解明されていない部分が多々ある臓器で未知の臓器とも呼ばれているが、その前立腺の細胞ががん化して増殖する原因の中に、男性ホルモンが大きく作用している。それを抑制すればがん細胞はおとなしくなるというのがあり、殆どの方がホルモン療法をする。こういった治療をしても、なかなかがん細胞がおとなしくならず、悩んだ挙句、抗癌剤、化学療法に踏み切った。今はUFTという飲む抗癌剤を1日3回、副作用を抑える漢方薬、痛み止め、胃腸薬、ホルモンを抑制するホルモン剤を飲んでいる。1日3回飲むというのは苦しい。粉薬もあるし、慣れたとはいえ喉でカプセルと錠剤が喧嘩しながら食道を下りていってるのを毎日感じている。早く1つでも2つでも少なくなってほしい。
がんに対するイメージ、怖い、辛い、痛い、わからん。これをそのまま体験してきて最終的に感じたことは、タイトルにもあったように『がんと向き合う』ということ。がんと向き合うとどうなるか?皆さん、勉強することでもいいです。苦手な学科に挑もうとしたら、挑んだらしんどいけども、わかってくるでしょう?背を向けてたらわからなくなるでしょう?それと一緒。がんと向き合うと、がんという病気がわかってくる。がんて、そんなすぐ死なないんだ。こんなふうにしたら解消できるんだ。私はがん治療しながら仕事もやっているが、がんになる前はがんになったら仕事はできないと思っていた。この場で皆さんにお話できるとは、その時は全く想像もしていなかった。ずっと病院生活だというイメージを持っていた。だけど、がんと正しく向き合ったらがんという病気がわかってきた。病気がわかってくると、何がいい、これがいいってこともわかってくる。
それで最終的にわかったのが、タバコはダメということ。私はヘビースモーカーで、1日に3箱、60本吸っていた。だけど、タバコというのは百害あって一利なし。去年のデータでアバウトだが、日本人の喫煙率は19%で殆どが男性。だけど、女性の方気をつけて。男性の喫煙率は年々どんどん下がってきているが、女性の方は1,2%だったのが年々どんどんと増えてきている。これは女性の社会進出とか、ストレスを抱えているといった問題もあろうかと思う。だけど喫煙すると肺は真っ黒になる。タバコは絶対に吸わないように。思うが、介護もそうなんだけど看護もそう、仕事的にストレスが溜まる。溜まって当然。それをタバコに逃げてはダメ。他のストレス解消法を見つけてほしい。
がん治療と緩和ケアの関係。緩和ケアは誰が・いつ・どんな時するのか。今までのがん治療の緩和ケア考え方は、最初宣告されたらがん治療がドーンときて、途中から『治療できないな』となったら緩和ケアに入っていく、これが従来的な考え方。新しい考え方は、がん宣告されたとほぼ同時頃から緩和ケアは始まる。身体的な治療の割合と緩和ケアの割合が徐々に変化していっているのが今の緩和ケア。
がんを宣告されたら、がん患者には4つの苦痛があると言われている。まず身体的な苦痛、痛みとか苦しみ、だるさ、倦怠感。あと、精神的な苦痛、不安とか恐れ、怒り。あと、社会的苦痛、仕事は続けられるんだろうかとか、経済的な問題、家庭内の問題。あと、スピリチュアルな苦痛、人生の意味とか価値観、死生観、自分が死んだらどうなるんだろうとか。
私は幸いなことに、最初の内から緩和ケアを受けることができたと捉えている。がん宣告をされ、即、身体的な治療が始まった。しかし、治療を進めて行くうちに、身体的な治療だけではダメだと主治医が気づいてくれ、院内の臨床心理士を紹介してくれた。そこで精神的な苦痛をある程度取り除くことができた。次に紹介されたのが医療ソーシャルワーカー、社会的苦痛、環境とか公的支援とか就労支援とか相談に乗ってくれた。それでも何か足りないぞ、ということで院内の患者サロンを紹介してもらった。そこで身体的、精神的、社会的以外のこともブワーっと話すことができた。そこで出会ったのが患者仲間。患者仲間同士で色々吐き出すことができた、緩和することができた。要するに、緩和ケアってどうしても身体的だけの痛みを取り除く緩和ケアと捉えがちだけど、身体だけじゃないということを覚えておいてほしいし、再認識してもらいたいと思う。心のケアが重要になってくると思う。だから、緩和ケアというのはがん宣告時から必要。皆さんは看護師として数年後には現場に出るわけだが、患者としては看護師にどうしても頼ってしまう、1番身近な人なので心のケアをお願いしたい。
今、私達にできることは何か。がんというのは早期発見・早期治療できる。日本では早期治療・早期治療のシステムが出来上がっている。それを早く受診してくださいよと、がん検診を促すカードを皆さんに作って頂きたい。親しい人に1人でも多くがんにかかってほしくない、日本人のがんにかかる確率2人の1人に入ってほしくないという思いを、カードにそのまま映していただけたらと思う。
【質疑応答】
生徒からの質問① 看護師にされて嬉しかったことは何ですか?
川氏:声掛けです。それもとってつけたような声掛けではなくて、さりげない優しい声掛けですね。それには随分助けられました。
生徒からの質問② がん宣告されて、すぐ禁煙できたんですか?
川氏:なかなかできなかったんです。私独自のやり方で、『いつもタバコを持っている禁煙法』っていうのをやりました。いつでもタバコを吸える状態にして、どうしても我慢できない時はタバコを吸います。その間隔が日増しに広がっていったらタバコを吸いたくなくなる、そういった方法で禁煙しました。